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名古屋家庭裁判所 平成8年(少)3657号 決定

少年 N・Y(昭和54.1.18生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  Aと共謀の上、金員を喝取しようと企て、

(一)  平成8年4月7日午後9時15分ころ、愛知県小牧市○○×丁目××番地、CDレンタル店「○○」にCDを返却にきたB(当時18歳)を認めてその後を追いかけ、同市○△×丁目××番地付近の路上で同人の腕を掴んで呼び止めて、付近の同所××番地先駐車場内に連れ込み、「お前何で逃げるんだ」「むかつくんだ」「靴を脱げ」等といって脅かし、さらにAがBの顔面、腹部、足を殴打する等の暴行を加えて同人を畏怖させ、同人が自転車の籠にいれていたポーチ内の財布から現金、プリペイドカード2枚及び会員証を抜き取ったほか同人から靴1足の交付を受け、その場で現金4,700円位及び靴1足ほか3点(時価合計1,000円相当)を喝取した

(二)  同月14日午後6時35分ころ、同市△○××番地、「○○」でゲームをしていたC(当時20歳)に「何ガンつけとるんだ」といいかがりをつけたが、同人が取り合わずに帰宅しようと店を出た後を追いかけ、同市△△×丁目××番地、○○医院の西側路上で「一寸待てよ。さっき何ガンつけとったんだ」と声をかけて呼び止め、同人が乗っていた自転車の前籠を掴んで同所××番地、○○郵便局の東側月極め駐車場に連れ込み、同人の腹部、背中を両名でこもごも数回殴打する等の暴行を加え、「詫びを入れろ。出すものを出せ」等と脅かし、金員を要求して畏怖させ、その場で現金1万3,800円位及び財布1個ほか7点(時価合計2,300円相当)の交付を受けて喝取した

2  同月21日午後11時ころ、同市□□××番地、○○自転車置場において、Aと二人に対しDから、同人が予め用意しておいた自動二輪車の合鍵を渡され、「ここにいつもゼファーが置いてある」「この鍵で盗りゃあ」「午前10時なら人もこない」と窃盗教唆されたことに基づき、Aと共謀の上、翌22日午前10時ころ、同所において、E所有の自動二輪車を窃取した

3  A、Dと共謀の上、同月24日午後2時50分ころ、同市○□××番地、○○中学校の南門前で雑談していたF(当時14歳)、G(当時14歳)に対し、「何やってる」「どこの学校だ」「こっちへ来い」等といいがかりをつけて、同所付近の駐車場へ連れ込み、同人らに対し、3名でこもごも手拳で顔面を数回殴打したり、腹部ないし腰部を足蹴りする暴行を加え、「財布を出せ」といって金員を要求して脅かし畏怖させ、その場でFから現金1,000円及び財布1個ほか6点(時価合計3,000円相当)、Gから現金130円、米1ドル紙幣1枚及び財布1個ほか2点(時価合計1,000円相当)の各交付を受けてこれを喝取した

4(一)  平成8年4月3日、怠業を父親に注意されたために家出し、友人宅等で寝泊まりしながら無為徒食する生活となり、不良友人とともに家出中の遊興費を得るために、本件1(一)の恐喝ほか6件の恐喝事件を重ね、

(二)  同年5月18日、恐喝した相手関係者や恐喝仲間から暴行を受け警察に保護をもとめたことから、翌19日に親許に戻ったが、同年8月3日に再び家出して現在に至っている、

(三)  しかも、この間、同年8月31日、Hとともに同年7月21日に愛知県犬山市の○○において大学生から喝取した自動二輪車をHが無免許で運転し、それに少年が同乗中、愛知県○○警察署員に検挙され、父親らに引き取られて帰宅したが、父親や継母の制止叱責を振り切って家出を続けている、

(四)  したがって、このままでは、将来、恐喝、暴行、道路交通法違反等の罪を犯す虞がある

ものである。

(法令の適用)

1及び3について 刑法60条、249条1項

2について 同法60条、235条

4について 少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ニ

(処遇の理由)

1  少年は、中学生のころに幼児期に別れた実母に会ったことから、そのころまで実母と思っていた継母に反抗するようになり、スーパーなどで万引きを重ね、家出を繰り返した。

2  少年は、高校受験を目標としている間は問題行動も収まっていたが、高校進学後は以前にも増して父親や継母に反抗して不良交遊から夜遊びを続け、家出を繰り返す生活を続ける中で前件恐喝事件を起こして高校を中退し、同事件について、鑑別所に入所し、平成7年11月9日、保護観察に付された。鑑別所における少年の言動からは、少年と父親及び継母との家族関係に大きな崩れは認められず、少年は保護者らとの関係の大事さに気付いたとして、不良交友との断絶の決意を表明するなど反省の態度は顕著であった。

3  しかし、鑑別所を出所した少年は、態度を一変させて、前件による逮捕等の身柄拘束ないし保護観察処分は納得できないとして担当保護司の指導を受け付けず、また父親らの指示にもしたがわず、早くも1週間後に家出して以前の不良仲間と徒遊中心の生活を送る中で本件各非行及びその他数件の恐喝を繰り返しており、非行内容も被害者の身分証明書をも取り上げて被害届けを出すと仕返しをする旨脅迫したり、喝取した自動二輪車の合鍵を作っておき、被害者に鍵を返して車は別の場所に置いてある旨告げながら、合鍵を利用して右車両を持ち去る等巧妙で増長した手口であり、悪質である。

4  この間、少年は、父親らに対し、従前の交友関係は解消するつもりはないといい張ったり、父親らの反対を無視して自宅に連れ込んだガールフレンドとの同棲を継続したり、継母に「ばばあ、関係ない」等と面罵し、父方伯父を頼って父親らは家を追い出した等と激しく父親らの非を鳴らして罵倒する言動をし、父親らと伯父、保護観察官と保護司、警察官の取り調べ時とその後とはがらりと態度を変える。

5  押収された原動機付自転車の返還請求手続をするために父親にも出頭してもらいながら、帰宅せず、また警察官に検挙されたりして父親に身柄を引き受けてもらいながら、直ちに家出する等反省の態度からは程遠い。

6  以上のとおり、少年は、問題点の改善に取り組む姿勢が全くなく、恐喝等の非行は常習化しており、父親ら保護者は監護に自信を喪失している状態では、少年の更生を図るためには、矯正教育が必要であると考える。

7  よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 猪瀬俊雄)

〔参考〕通告書

名観観第×号

通告書

平成8年9月10日

名古屋家庭裁判所 殿

名古屋保護観察所長 ○ ○

下記の者は、少年法第24条第1項第1号の保護処分により、当保護観察所において保護観察中のところ、新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので、犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。

氏名

年齢

N・Y

昭和54年1月18日生

本籍

愛知県犬山市○○×番地の××

住居

本籍に同じ

保護者

氏名

年齢

N・S

昭和27年12月11日生

住居

愛知県犬山市○○×番地の××

本人の職業

無職

保護者の職業

会社員(株式会社○○)

決定裁判所

名古屋家庭裁判所

決定の日

平成7年11月9日

保護観察の経過及び成績の推移

別紙1のとおり

通告の理由

別紙2のとおり

必要とする保護処分及びその期間

少年院送致相当

参考事項

(添付書類) 質問調書甲(本人)謄本2通

質問調書乙(父親)謄本1通

面接票謄本 1通

誓約書謄本 1通

別紙1

保護観察の経過及び成績の推移

(平成7年の状況)

1 本人は、平成7年11月9日表記言い渡しを受け同日実父継母同伴で当庁に出頭し当庁の保護観察下に入った。

2 同月12日実父継母同伴で担当者宅を訪問。早く仕事に就き、規則正しい生活をするように指導を受けた。

3 11月17日継母と些細な事で喧嘩し、夜間に外出したまま帰宅せず家出した。同月27日本件共犯者のIと帰宅したが翌日再び外出して帰宅しなかった。12月2日再び帰宅したが、父親と言い争った末に荷物を持って家出しようとし、父親の連絡を受けた担当者が往訪して話し合ったが家出し、友人宅で寝泊まりする生活の後に、同月10月から名古屋市○○区の叔父夫婦宅で生活するようになった。

4 同月15日主任官が○○福祉会館で本人に面接。(別添面接票写1参照(編略))同月20日本人が担当者宅を訪問。

(平成8年の状況)

5 本人は、名古屋市○○区在住の叔父夫婦の許で生活し○○で1週間ピザ屋で2週間程稼働していたが、2月24日に両親と話し合い両親の許に帰宅。この間の1月18日及び2月4日に担当者宅を訪問。

6 3月14日本人が担当者宅を訪問し、『○△』で稼働していることなどを報告。

7 4月3日怠業を父親から注意されたことで家出し、岩倉市在住の友人J宅で寝泊まりする状態になった。家出後の本人は、本件共犯者のI・A・K・L・D等と7件程度の恐喝事件を惹起。

8 4月20日原付自転車に友人2名を同乗させ運転していて、○△警察署員のパトカーに追跡され、信号無視をして逃げ回った上、原付自転車を放置して逃走。同月24日父母が同伴し○△警察署に出頭した。

9 5月18日本人が前日にブーツと1万円の現金を脅し取った相手の関係者と恐喝仲間のI・Aから前日の恐喝を理由に師勝町内の公園で暴行を受け、近くの民家に逃げ込んだ後に△○警察署に保護を求め、実父継母の出迎えを受けて帰宅した。

10 5月23日実父継母同伴で名古屋保護観察所に出頭させ、質問調書を作成。(別添面接票写2参照(編略))

6月6日及び20日本人が担当者宅を訪問。

同月21日主任官が○○福祉会館で本人と面接。(別添面接票写3参照(編略))

7月19日本人が担当者宅を訪問。

12 8月3日実父と口論して、家出。

同月16日主任官が○○福祉会館で本人に面接。(別添面接票写3参照(編略))

13 同月31日、Hと一緒に脅し取った単車を無免許運転していて、○○警察署員に検挙され、実父継母の出迎えを受けて自宅に戻ったが、翌日再び家出。

14 9月6日○○警察署に出頭し、8月31日の無免許運転及び恐喝事件の調べを受け、○○警察署の係官に送られて自宅に来るが、本人は自宅に上がらず、そのまま去ってしまった。その際に、○○警察署係官から、同月10日付けの名古屋保護観察所への呼出状を渡された。

15 本人が名古屋保護観察所に出頭したので主任官は質問調査を行った。

別紙2

通告の理由

1 本人は、本年4月3日怠業を父親に注意されたことを理由に家出し、保護者の正当な監督に服さず、友人宅等で寝泊まりしながら無為徒食する生活となり、不良友人とともに家出中の遊興費を得るために、本年4月24日○○中学近くの空き地でA、Dと共に、同中学3年生三名に暴行を加え、その内一名から現金千円を恐喝するなど、家出中に7件程度の恐喝事件を惹起した

2 本年5月18日、恐喝の相手関係者や恐喝仲間から暴行を受け警察に保護を求めたことから、同月19日に親許に戻ったが、保護者の正当な監督に服さず、本年8月3日に再び家出して現在に至るものであり、家出前の本年7月21日犬山市の○○でHと共に大学生から恐喝した自動二輪車を、家出中の本年8月31日Hが無免許運転しそれに同乗していて愛知県○○警察署員に検挙され、親の出迎えを受けて自宅に帰ったが、父や継母が叱責し止めたにも関わらず、自宅に戻らず家出を続けているものである。

以上の事実は、少年法第3条第3号イ、ロ、ニに該当しているものであり、このままでは将来、恐喝、暴行、道路交通法違反などの罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をする虞がある。

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